学校給食に地場産物を活用する目的は、「地域の自然、食文化、産業についての理解を深める」「食料の生産・流通に携わる人々の努力、苦労を理解し、感謝の心をもつ」「流通に要する経費等についての関心を高めて環境保護に貢献する態度を培う」「日本や世界をとりまく、食料に関する知識・理解を高める」などで、地域の理解だけではなく、もっと広く世界をとりまく食料事情についても関心を寄せる心を育み教育に生かすことが大切である。
そして学校給食に地場産物を活用することによって、生産者の生産意欲の向上や学校給食に対する理解、地域経済の活性化につなげることもできる。
次に地場産物の活用推進方法について、私の実践を通してと、活用の手順をお話ししていきたい。
私は30年ほど前、北海道の十勝、帯広市で、学校栄養職員として勤務しており、地場産物の活用に取り組んだ。地場産物を活用するに当たっては、推進組織を設置することが重要と考えている。
手順としては、行政や学校、生産者団体、有識者、保護者などで推進組織を設置し、現状把握、活用率の目標設定、地場産物の調達方法、献立や加工食品のための研究開発など活用方法を検討する。次に食育だよりや、イベントを行って市民へ啓発する。
文部科学省は一昨年、「栄養教諭を中核としたこれからの学校の食育」という冊子を作成し、食育を行う際は、計画をたてて、実践し、そして評価して改善するという、PDCAサイクルをしっかりと回していくことを指導している。
私の実践では、教育委員会がトップになり、農政部局、学校関係者、食材を納入する農協、給食センターなどで推進組織を作り、目的や情報を共有した。役割分担を明確にして、計画を作り、実施して、評価して、評価が悪かったら計画に戻って修正してPDCAサイクルを回しながら推進していった。
現状把握、目標の設定では、例えば、子供たちが地場産物を知らないのなら、児童生徒、市民の地場産物に対する理解を促して愛用してもらうことを目標として、現在の活用率、食材数ベース26%を40%に、重量ベース50%を70%に上げていくことを目標にする。
私の場合、取組の目的としては、農産物輸入自由化への対策、低農薬・有機栽培農産物の推進と生産者の育成、地場産物への児童生徒・市民への理解、地場産物の愛用促進、眠っている郷土料理の発掘などであった。農政部では、郷土料理のレシピと共に指導者を派遣する「帯広の味銀行」を作った。
予算措置や生産者の育成などは農政部が担当しJAがコーディネートした。有機栽培、低農薬栽培を行うと、最初、収量が落ち、生産物が一定のサイズにならない。そこで5年間くらいは収量減に対する価格保障をするとともに、ふぞろいな野菜でも学校給食センターで全量引き受け、市価と比較してマイナスになる部分を農政部が補填した。5年たって収量も安定し、普通の業者と同じレベルで納入できるようになったら自立してもらい、次の新しい生産者を育成することとした。
市民に周知したり、生産者の意識を高めたりするために、ふるさと給食週間、収穫体験学習と交流給食、学校給食週間時に姉妹都市の産物を用いた給食など、食育に関するイベントを実施し、マスコミに広く広報した。
ふるさと給食週間は11月に毎年実施し、一週間を通じ、北海道全体の産物のみを用いた給食を実施した。いくら丼、十勝牛のステーキ、ちゃんちゃん焼き、かにを使った鉄砲汁、ポテトグラタン等というようなメニューを提供した。食材のことや献立の由来に関する教師用の指導資料を作り、学級担任すべてに配った。市長と児童の交流給食を実施し、広く報道してもらうとともに、給食センターで市民の試食会も行い、給食に対する理解を図った。
収穫体験学習では、アスパラ取りやごぼう堀り体験をし、それらを給食に使用し、生産者との交流給食をした。ゴボウは生産者の方が少し抜きやすくしておくなど、手間のかかることではあったが、協力していただいた。また、バス代は農政部が措置した。
学校給食週間には、大分市、徳島市、静岡の松崎町などの姉妹都市の産物を用いた給食を実施し、地域の農産物を知るだけでなく、遠く離れた姉妹都市の産物を知り比較することで子供たちの中によりインプットさせることとした。北海道では竹が珍しいので、徳島市の竹ちくわを食べたあと、竹を笛にしたり工作に使ったり、子どもたちが楽しめるよう企画した。
子供たちへの食育の集大成として、バイキング給食を実施した。黄、赤、緑の食品、汁物、デザートの中から決められた数を取るというルールで、たとえば緑の食品で、ほうれん草のごま和え、きんぴらごぼうがあったら、どちらか1品選択するように、好き嫌いで選べないシステムにしていた。また、後で取る人のことを考えてきれいに取る。おかわりをする時、友だちのことを考えて一度に何個も取らないという、思いやりの気持ちの醸成もバイキング給食の狙いとした。
地場産物を活用した親子料理教室も行った。自分の体を自分自身の力で養っていける能力を身につけさせることは、学習指導要領がめざす生きる力につながる究極の食育だと考える。料理を作ることを覚えると、食事の重要性とか、作ってくれる人たちへの感謝の気持ち、社会性、ともに食べることの楽しさ、心身の健康、食文化、食品を選ぶ力、そして、思いやりの気持ちが育つ。
食育の評価について、文部科学省が作成した「栄養教諭を中核としたこれからの学校の食育」においては、活動指標と成果指標の両方を評価することを求めている。地場産物活用の評価として、活動指標では、たとえば献立を活用して食文化や食品の産地等を計画的に指導できたか、家庭や地域、生産者等と連携して給食を提供出来たか、計画的に地場産物の活用が出来たかというようなことを5段階評価する。成果指標としては子供たちがどう変容していったか、給食を残さず食べた児童の割合、地場産物に関心があると回答した児童の割合、保護者の変容ならば、地場産物・国産食材の使用割合、地場産物を意図的に使用する割合等で評価してはどうか。
文部科学省が実施している「社会的課題に対応するための学校給食の活用事業」の愛媛県の報告では、その町の食材を知らない子供たちが、29年に19%いたのが30年に6%に減り、地産地消の推進を知らない人たちが取組を進める前に28%だったのが8%に減っている。青森県田子町では児童の変容として、副菜の残食率がある。食育が進むと子供たちは感謝して食べるようになったり、栄養のバランスを考えて食べるようになったりするので、27年度とくらべて29年度は残食率が減っている。保護者の変容では、食事に地元産の食材を使用すること、伝統的な食文化や行事食を学ぶというのが増えている。このように評価をしていきたい。
地場産物を使用した学校給食を活用して、教育(食育)に生かすことが、重要なのであって、ただ単に食べさせれば良いと言うものではない。産物がこの地域で生産されている背景を学び、児童生徒が生産体験をすることによって生産者の思いや苦労を学び、感謝の心を育む。社会科や家庭科、総合的な学習の時間を通して食文化を学び、食品を選択する能力を身につける。
私は、「郷土を愛する気持ち」を育むことが「地場産物を使用した学校給食を活用した食育」のゴールだと思っている。私の住んでいる地域にはこんな素敵な食品があって、それはこのような気候風土があったから、私たちの先祖がこんな食品をもってきてくれたから、私はこんな素敵な美味しい物が採れるところに住んでいて幸せだというように感じてほしい。郷土を愛する気持ちがあれば、次に県を愛する気持ちになり、もっと拡大すると日本を愛する気持ちになる。そしてもっともっと拡大すれば地球規模で愛することができる人になる。そういうことが、地場産物を活用した食育の目指すものではないかと考える。
そして、自分の地域以外で作られているものを危険と思うのではなく、地域外にも安全なものもあることを理解した上で地域の物を愛して食べる人に育って欲しいと考えている。