田中延子コラム

調理従事者の学校給食喫食禁止について

1月から3月末まで、海外に滞在している。海外に居ても常に学校給食に関する報道は気がかりである。1月末から2月にかけて、御坊市、立川市、小平市の学校給食で連続して食中毒が発生し、学校給食の信頼が失墜するのではないかと心配していた。しかし、東京都の保健福祉局が「刻み海苔」を原因食品として究明したのには、拍手喝采、流石、東京都の食品衛生部局は優秀である。

反面、和歌山県が食中毒の原因究明のため、原則として調理従事者の喫食を禁止する判断をしたという報道には驚いた。

学校給食は一義的には「美味しい給食を安全に提供すること」が大切であって、食中毒事故の調査のために調理従事者の喫食を禁止することは、「美味しさ」を犠牲にすることにも繋がり、本末転倒と言わざるを得ない。

調理従事者は、自身が調理した給食の出来上がりや時間をおいて変化する味、主菜・副菜及び量などのバランス等の確認を行い、児童生徒の側に立って修正を加えることで、児童生徒に喜ばれる美味しい給食づくりが可能になる。児童生徒にとっては「安全な給食」は当然のことであり、「美味しい給食」でなければ、食育の教材になるはずもない。

このことから、文部科学省の学校給食衛生管理基準においては、検便を月2回以上と日々の健康調査を行うという条件を付して、調理従事者の喫食を許可している。

安全・安心な学校給食を提供するためには、事故を起こさない対策を講じることが最も大切であり、加工業者等を含めた調理従事者に対する衛生管理の向上を図ることが重要である。くれぐれも、他の自治体が和歌山県に追随することのないよう、良識ある判断に期待したい。

次に心配されることは、食材の購入についてである。

今回の事件は、教育委員会が購入した食材によって食中毒が発生し、原因が究明されるまでの間、受託業者が蒙った被害は想像を超えるものであったと思う。しかし、この事件に乗じて、学校給食食材の購入を調理受託業者に渡すよう求める動きが出るのではないかと心配している。

献立作成は栄養教諭、学校栄養職員であり、その献立は教育委員会が承認している。例えば、快適で多機能な家を建てるとしよう。設計者が設計図に基づいて建材や機材、家具などを選定することによって、設計者の意図した住みやすい家が建築される。このたとえで言えば、献立は設計図である。献立作成者は、責任をもって、食材の選定を行い、自分の意図した給食が出来上がったのか、児童生徒が喜んで喫食しているのかどうかを確認する責任がある。

食材の購入に当たっては、購入する食材がどのような衛生管理のもとで製造されているのかを、確認するとともに、信頼できる納入業者の選定が望まれる。

私たちは、これまで、他の食中毒事件を教訓に衛生管理の向上を図ってきた。くれぐれも、過剰反応に陥らないよう冷静な判断を行うとともに、より一層の衛生管理の向上に期待したい。

被害に遭った子どもや教職員の一日も早い快復を祈っている。