八潮市の学校給食における病原大腸菌食中毒について~なぜ、前日調理が行われたのだろうか~

近年、学校給食の衛生管理レベルが向上しており、学校給食調理場における食中毒の発生は激減し、一部、外部納入品に付着していたノロウイルスやヒスタミンによるものが発生しているのみである。今回、なぜ、衛生管理レベルの低い病原性大腸菌による食中毒が発生したのだろうか?しかも、喫食者の約半数が発症した、平成8年に大阪府堺市で起きた腸管出血性大腸菌O157食中毒事件の5,546名に次ぐ大・大・大規模食中毒事件である。

そもそも学校給食における病原大腸菌による食中毒は、2007年に山梨県において「高野豆腐と生野菜の和え物(推定)」を原因とした事件以来、13年間発生していない。この事件は「学校給食衛生管理基準」を熟知していない新卒の代替栄養士が食中毒のリスクが高いことを知らずに生野菜を使用した和え物献立を作成したことによって発生したと考えられ、献立作成者への衛生管理研修の充実が求められた。

さて、八潮市の食中毒事件はどうして起きたのか?調査を担当している保健所の発表によると概要は以下のとおりである。

〇発生場所:協同組合東部給食センター 四季亭 八潮工場(全面委託)

〇発生日 :令和2年6月28日(日)

〇有症者数:3,453名(小学生2,072名、中学生1,167名、教職員214名)

〇喫食者数:6,922名

〇主な症状:下痢、腹痛

〇病因物質:病原大腸菌

〇メニュー:ごはん、鶏の唐揚げ、ツナじゃが、海藻サラダ、みそ汁(6月26日(金)のメニュー)

発生原因は調査中であるが、海藻サラダ(使用食品:ワカメ、海藻ミックス、キャベツ、人参、コーン、和風ごましょうゆドレッシング)のワカメに加熱工程がなかったことが指摘されている。しかし、ワカメを加熱することは必須となっておらず、衛生管理レベルの高いメーカーのワカメは加熱せずに使用されている。そもそも乾物は保存食の採取さえも義務付けられていない。

保護者宛に市教委から配布された文書には、発生原因として「海藻サラダのワカメと海藻ミックスを前日に水もどしし、当日加熱処理をしなかったことが原因」と記述されている。

これが、本当だとすれば、わかめを前日に水もどししたことこそ発生原因ではないだろうか?不幸にして病原大腸菌が付着していたとしたならば、時間の経過とともに増殖しても不思議ではない。なぜ、「学校給食衛生管理基準」において禁止されている前日調理を行ったのだろうか?ワカメを前日にもどすなら、他の食品も前日調理をしていたのではないかと疑われても仕方ない。

また、全面委託の民間調理場には制度上県費負担職員である栄養教諭・学校栄養職員は配置されない。だとすれば、献立作成や民間の調理場に対する衛生管理の指導は誰がどのように行っていたのだろうか?児童生徒に対する食育はどのように行われていたのか?分からないことだらけである。

まだ、正式な保健所からの発表は見ていないが、今後の調査結果を注視したいと思う。

文責 田中延子